ギターと研究と日常

大学で研究をしつつギターを弾いています。時々エフェクターを改造したり旅に出たり。

BOSSコン改造のすゝめ 第0章:オーディオの世界は泥沼

「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」と言えり。

これは福沢諭吉による名著「学問のすゝめ」の有名な冒頭文です。この文には続きがあり、「(生まれてすぐではみんな平等です。)しかし大人になってこんなにも差が出てしまうのは何故でしょう?それは人によって勉強しているかどうかが違うからなんですよ!」という部分までを含めたものが、福沢諭吉が人々に学問をすすめる理由なのだそうです。その理由のうちの「生まれてすぐは平等だ」という部分だけが覚えられがちですが、実際は福沢諭吉が平等論者という訳ではないのです。学問のすゝめを参考に題名を決めたため、少しはその内容に触れないと…と思い、このようなムダ知識を冒頭に書きました笑。

 

そもそも「BOSSコン」とは何ぞや

BOSSコンとは、「日本のエフェクターブランドBOSS製品のコンパクトエフェクター」のことです。

BOSSは、各種キーボードやギターアンプJC-120等で有名な株式会社ローランドのグループ会社で、日本で初めてコンパクトエフェクターを製造・販売したブランドです。「量産性が高い」「品質が安定している」「初心者にも買い求めやすい価格」という3拍子が揃っており、統一感のある印象的な見た目も相まって、ギタリストならほぼ誰もが知るエフェクターブランドでもあります。

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BOSSコンの写真です。非ギタリストでも見たことある形なのでは…

エフェクターはその名の通り、音に効果を与えます。その効果の種類は無数にありますが、私が改造しているのは主に「歪み」という効果を与える「歪み系エフェクター」です。歪みの効果を簡単に説明すると、元々は「チャラ~ン」っていうギターのキレイめな音を「ジャカジャカ」って音に変える効果です。伝わりましたかね…笑。

 

歪みエフェクターの起源

生音の音量が小さく他の楽器に埋もれてしまっていたギターを、何とか音を電気信号にして信号を増幅して大きな音量で出せるようにしよう!と、エレキギターギターアンプが開発されました。しかし、ギターアンプで音量を大きくしたとき、「チャラ~ン」という音が次第に「ジャカジャカ」と鳴るようになりました。「増幅した信号の大きさ」が大きすぎるあまり「ちゃんと再生できる信号の大きさ」の限界を超えてしまったことによるものです。これが歪みという効果の原因を簡単に説明したものです。ちなみに、昔のラジオやトランシーバーから聞こえる声がザラザラした感じになるも歪みの効果によるものです(歪みの原理が少々違いますが…)。そして、アンプの限界突破というメカニズムで生み出された歪みの音が、次第にギター演奏に取り入れられるようになりました。そこで、アンプを通さなくても歪みの効果を得られるようにと開発されたのが、歪み系エフェクターなのです。

 

良い歪みの音とは

先ほど説明したように"歪み"という現象自体がアンプの限界突破を表すようなもので、極力歪みを抑えて動かすよう設計されるオーディオ機器とは別物のように思えます。しかし、ギタリストの間で良い歪みの音とされるものが「極力歪まないように設計されたオーディオ機器が結果的に歪んでしまった音」なので、歪み効果を再現する歪みエフェクターにもオーディオ機器と言える部分があります。さらに、オーディオ機器の良し悪しを決めるのも「電気的な音声信号をどれだけ忠実に再生できるのか」という理論的なものではなく、「人間の耳がどれほど心地よいと感じるか」という感覚的なものです。つまり「良い音」と感じた時点でそれが「良い歪みの音」なのです。

 

良い音を求めることは、底なし沼に足を踏み入れること

はっきり言って、良い音を追求することは底なし沼に足を踏み入れるようなものです。

オーディオの世界では、良い音を求めて電気電子業界の技術発展の流れに逆行することがしばしばあります。その一例に、真空管の使用があります。

技術発展により照明機器は白熱電球からLEDへと移行しました。それと同じく電気電子業界では、大きな電力を必要とする上に劣化が激しく小型化が難しい真空管から、省電力で長寿命かつ小型なトランジスタへと移行しました。その技術発展のおかげで、昔は一部屋を埋め尽くすほど巨大だったコンピュータが今やスマホという手のひらサイズで、しかも何百・何千…倍もの性能を実現しています。しかし、オーディオの世界では、トランジスタに置き換えられたはずの真空管が未だに使用されています。トランジスタにはない真空管の特性が、人間の耳にとって心地よく聞こえるからだそうです。

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世界初のコンピュータのENIAC。当時はトランジスタなど存在せず、その役割を全て真空管が果たしている。Wikipediaより。

また、小学校の理科でも習うように抵抗器はΩという単位で性能を計ることが多いです。しかし、オーディオの世界では「金属の1Ω」と「炭素の1Ω」が全く違う物として扱われます。つまり、回路を構成する全ての材料によっても音の聞こえ方が変わってくるということです。

さらに、「良い音」の価値観は人によって違います。先ほどの例で例えると、全員が全員「金属の1Ω」と「炭素の1Ω」の違いを聞き分けられる人であるとは限りませんが、その部品選択を誤っただけで90%の人が「悪い音」だと思う可能性もあります。どこまでの追求で妥協するのか、というのも重要な判断基準となるのです。

このように、感覚をベースにしたオーディオの世界は、時には科学技術の発展に逆行することもあれば、材料が違うだけで音が変わることもあります。さらに、人によって異なる価値観との向き合い方も重要となるのです。だからこそ、「良い音」を得られたときの感動はとても大きなものだと私は思います。趣味としては、どちらかというと演奏の方に重きを置きたい私はさほど深い部分までは追究できませんが、その中でもどのように考えてエフェクターを改造しているのか、はたまた何故BOSSコンの改造という結論に至ったのかというのを第1章以降で解説していく所存です!!

 

まとめ

今回の記事はBOSSコンの話から始まり、歪みの話、そしてオーディオの世界の泥沼さという、非常に難しい話にシフトしていきました。サブタイトルでも書いたように、良い音を求めるオーディオの世界は泥沼だということを理解して頂けたら幸いです笑。

第1章以降もお楽しみに~!!